5年間働いた大学附属図書館と、そこで出合った特別な本。
読みたい本をどこで探すか。いまは最寄りの書店かインターネット通販が定石だが、学生時代はもっぱら図書館だった。
私の場合、在籍している大学の附属図書館でアルバイトをしていたので、どこにどのような本が置かれているか、館でどのようなサービスが受けられるか、他の学生よりもずっと詳しかったと思う。
図書館で働き始めてから友人に、「勤務中ずっと本を読んでいるの?」と聞かれたことがある。気になる本を本棚から持ってきて、受付カウンターで優雅に読んでいる……なんてことはない。
実際は、返却された本を一冊ずつ決められた本棚に戻したり、本が順番通りに並ぶように整理したり、目立たないところで忙しく働いている。本棚にびっしりと並んでいる製本された雑誌(1部数キログラム)を別の本棚に移す作業をしていた時は、まるで引っ越し作業をしている気分だった。
本棚での作業がひと段落したら、受付カウンターに移動。利用者や司書からの頼まれごとがなければ、比較的のんびりと過ごすことができた。それでも、声をかけられたらすぐ対応するため、この時間はじっくり読みたい長編小説よりもサクッと読めるニュース誌や短めの論文をよく読んでいた。
本を戻している時間は、知らない本と出合うチャンスだ。図書館では数えきれないほどたくさんの本と出合ってきたが、そのなかから一冊紹介しよう。
『クリエイティヴ・マインドの心理学──アーティストが創造的生活を続けるために』には、アスリートに必要な筋肉の鍛え方や生活習慣を示すかのように、アーティストに必要な創造的思考の鍛え方が10章にわたって書かれている。一章読むだけでも、目から鱗。たとえ芸術家ではなくとも、仕事や趣味でクリエイティビティを高めたい人にお薦めしたい。
この本は図書館で出合った本のなかで唯一、返却後に改めて購入した本だ。“心に響いた”から買ったというわけでもないが、ずっと手元に残しておきたいと考えた。
図書館でのアルバイトは大学院の修了とともに終えた。もう図書館で働くことも、大学で講義を受けることもないが、読書から新しいことを学ぶ習慣は大切にしていきたい。(編集TO)
※たとえ運命的な出合いだったとしても、図書館で借りた本は必ず返却してください。
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